砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
 どのくらいの時間が経ったのだろう。

 毬は、うつらうつらと牛車に揺られて眠りに落ちていた。

「御台様」

 耳に聞こえるのは、龍星の声だ。
 一瞬、誰の声か分からないくらい冷たかった。

「私」

 毬は慌てて瞳を開け、慌てて衣被を被る。
 これがなければ、人前に出るわけには行かない。

「ここは?」

 牛車から降りたところは、ちょっとした別荘地のような建物があった。

「本日はここでお休みください」

 他人行儀なほど丁寧な口調を崩さない。

「ありがとう、龍星」

 毬も千を真似て言ってみた。
 それだけで、心が痛むほど龍星のことを遠く感じるので困ってしまう。

 皆、それぞれの仕事で忙しく動いているとはいえ、何の弾みでばれてしまうか分かったものではない。折角の芝居最後まで演じきるより他はない。

 毬は淋しさを奥歯でかみ殺して、なんでもない振りをするほかはなかった。

 御簾の向こうに隠れて、誰とも顔を合わせない。

 だから、毬が千を演じるのはさほど難しくはない。
 少し低めの声を出し、我侭な発言をすれば良いのだ。しかも、若干高圧的に。


 食事を取って、早々に眠りにつくことにする。
 気分が悪いと偽って、周りの人と言葉を極力交わさないように気をつけた。
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