砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
「失礼します」

 早々に床(とこ)に横になっても眠れるわけではない。
 仕方なく身体を起こしていたところ、部屋の外で声があった。

 龍星の声だ。
 毬はごくりと息を飲む。

 酷く冷たい。他人行儀な声。

「薬師(くすし)に薬を作らせて参りました。
 御加減はいかがですか?」

 丁寧な口調は、氷のように冷たい。
 冷氷(れいひょう)の君――と、龍星のことを女房たちが影でそう呼んでいると言う噂を耳にしたことがあったのだけれど。

 本当に、ぴったりだわ、と毬は思う。
 触れたら怪我をしそうなほど、冷たく、そして細く鋭く尖っていた。

「ありがとう。
 そこに、おいておいて」

 姿を見たら、泣いてしまいそう。
 毬は思わずそう答えた。

「そうは参りません」

 龍星は感情のまるで見えない声で、そう言った。

「でも……」

「いつものように、祈祷させていただけますね?」

 いつも……、いつもって。
 いつも、お姉さまに何してるのかしら?

 毬は動揺して言葉を無くす。

「失礼します」

 龍星は、当然のように御簾の中に入ってきて。
 毬と目が合った途端に、ふわりと、蕩けそうなほど甘い笑みを浮かべてみせた。
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