砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
 龍星は、その紅い唇に指をあて、そっと何事か呪を呟く。

 直後――

「毬、大丈夫?」

 いつも、龍星の屋敷で聞かせてくれるのと寸分変わらぬ優しい声で、そう言ったのだ。
 まるで、さっきまでのことなんてなかったかのような変貌ぶりに、毬は思わず目を瞠る。

「もう、外には何の声も聞こえないよ。
 普通に話して、毬」

 龍星は、ずかずかと近づくと遠慮もなしに、ぎゅっと毬を抱きしめた。
とても、強く。

「りゅ……。
 だって」

「何?」

 手は放さず、力だけ緩めて龍星が問う。
 次に毬が喋りだすまでに、三度も、愛しげにその唇を奪いながら。

「何しに、来たの?」

「表向きは御台様に薬を届けに。ああ、ついでに『いつもどおりの祈祷』もしてくるって言ったかな。
 一度もしたことないけどね」

 くすり、と、いたずらっ子のような笑いを、その秀麗な顔に浮かべて見せた。

「どうして」

「どうしてって、毬があまりにも落ち込んでるからに決まってるだろう?
疲れた?」

 心を痛くした張本人から、見当違いの質問をされてもどう答えたらよいのか分からなくて毬は言葉を失う。

「……私、そんなにお姉さまの真似、下手だった?」

「いや、完璧。
 問題ないよ。毬が落ち込むのは決まって俺と話した後だけだもの。だから他の人は気づいてないさ」

 毬は再び言葉を失う。
 ……そこまで分かってたら、理由も分かってるよね?

 龍星は何も言わずすうと瞳を眇めると、毬の頬に優しい唇付けを落とした。
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