砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
「どうしたの?」

 再び、質問が来る。

「だから」

 毬はそこで言葉を詰まらせた。

 もしかしたら、龍星はその原因に本当に気づいていないのかもしれない。
 あまりに、普通だからまさかそれが毬を哀しくさせるなんて、思ってないのかもしれない。

 だったら、伝えない方がいいわ。

 毬はふわりと微笑んだ。

「やっぱり御台様って大変ね。
 私には務まらないわ、気苦労が多すぎて」

「大丈夫、毬を帝にやったりはしないから。
 心配しないで」

 蕩けそうなほどに甘い声が、耳に心地良い。
 龍星の手がいつものようにそっと毬の頭を撫でた。

 外での龍星とのあまりにもの差異に、毬の頬は思わず綻ぶ。

 他の誰もが<冷氷の君>の姿しか知らないのだと思うと、ほんの少しだけ自慢したい気にすらなった。そのささやかな妄想が、ふわりと毬の口許を緩ませる。

 それを見た龍星の瞳が、にこりと笑った。

「良かった、いつもの毬に戻ってくれて」

「そんなに違う?」

 毬は首を傾げる。

「全然違う」

 そこまで言うと、龍星は毬の耳の傍で囁いた。

「俺のことなんてもう、忘れたのかと思うくらいに冷たかったよ」

 ……私も?毬はふふふと笑いを零す。同じだったんだ。
 龍星と同じくらいにきちんと仕事が出来たんだ。

 裳着すらしていない少女には、御台の身代わりなんて気が重すぎた。
 張り詰めていた気持ちが、その一言ですっと、心地よくほぐれていくのが分かる。
 毬もそっと龍星の耳元に唇を寄せた。

「私も、龍に同じこと思ってた……だから、少しだけ淋しかったの」

 同じ気持ちを確かめ合うように、そっと。
 二人の唇が重なった。


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