砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
 屋敷に帰ると、龍星は毬が寝ているはずの部屋を覗いてみる。

 毬は退屈そうに、ぼうと机に臥せていた。

「毬。手伝ってもらいたいことがある」

 いつもよりずっと硬い口調に、毬は真剣な顔で視線をあげた。

「それも、女房として振舞ってもらいたいんだが……。
 もちろん、無理は言わない。
 嫌だったら、華に頼む」

「やるわ。女房、結構よ」

 毬はさくっと答えた。
 そして、ふわりと花のように微笑む。

「龍、こっちの髪も切って?」

 と、自分の左側の前髪を指したのだ。
 まるで、肩についたほこりを払ってくれと頼むとの同じくらいの軽さで。

「今?」

 龍星が言葉を失う。
 毬はためらいもなしに頷いた。

「だって、裳着前の女房なんて不自然じゃない。
 お願い。
 どうせ切ってもらうなら、龍がいいの」

 毬は右側の結ってある髪を解きながら言う。

「あまり……器用だとは思わないんだが」

 龍星が苦笑する。

「あら、大丈夫よ。雅之が神仏に祈ってくれているのだもの。
 失敗してもすぐに伸びるわ」

 毬が口許に浮かべた微笑みは、いつもより数段、彼女を大人に見せていた。
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