砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
三の十四
「安倍様」
聞きなれた声の、耳慣れぬ呼び方に違和感を覚えて龍星は振り向く。
女房の着物に着替え、髪型さえもそのように整えた毬が頭を下げて跪いていた。
「毬?」
「安倍様、そのような呼ばれ方は困ります」
毬は顔をあげずに、静々と言う。
近づけない壁のようなものを感じて、龍星はそこに立ち止まった。
男装したときにも、千の身代わりをしたときにも感じたのだが、毬はそのものの格好をしたときに、そのものに成り切るのが本当に得意だ。
言葉遣いや態度だけでない。
雰囲気そのものをがらりと変えてしまう。
「どうした?」
龍星は諦めて、自分の言葉さえも改める。
毬は床を見たまま言う。
「私の傷、和子様には見えないようにしていただけませんか?」
龍星はやれやれと肩を竦めると、雰囲気に飲まれないよう気をつけて毬の傍へと近づいた。
「や……」
毬はまるで知らない人に触れられたかのように驚きの声を上げるが気にしない。
強引にその顔をあげさせると、ためらうことなく唇を奪う。
「もぉ、龍っ。
人が真面目にやってるのにっ」
ようやく解放された濡れた唇を尖らせ、毬が拗ねる。
聞きなれた声の、耳慣れぬ呼び方に違和感を覚えて龍星は振り向く。
女房の着物に着替え、髪型さえもそのように整えた毬が頭を下げて跪いていた。
「毬?」
「安倍様、そのような呼ばれ方は困ります」
毬は顔をあげずに、静々と言う。
近づけない壁のようなものを感じて、龍星はそこに立ち止まった。
男装したときにも、千の身代わりをしたときにも感じたのだが、毬はそのものの格好をしたときに、そのものに成り切るのが本当に得意だ。
言葉遣いや態度だけでない。
雰囲気そのものをがらりと変えてしまう。
「どうした?」
龍星は諦めて、自分の言葉さえも改める。
毬は床を見たまま言う。
「私の傷、和子様には見えないようにしていただけませんか?」
龍星はやれやれと肩を竦めると、雰囲気に飲まれないよう気をつけて毬の傍へと近づいた。
「や……」
毬はまるで知らない人に触れられたかのように驚きの声を上げるが気にしない。
強引にその顔をあげさせると、ためらうことなく唇を奪う。
「もぉ、龍っ。
人が真面目にやってるのにっ」
ようやく解放された濡れた唇を尖らせ、毬が拗ねる。