砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
 雅之は杯をゆるりと盆に戻す。

「待たせたな」

 と、そう間もおかずに龍星が帰ってくる。

「邪魔だろう?俺は帰る」

 直球で言い切ってしまうあたりが、雅之の雅之たる所以だ。
 龍星は再びそこに座り、楽しそうに笑った。

「邪魔ならわざわざ誘わない」

 言いながら、再び杯を手に取る。

「そうかな?」

「そうだ」

「……そうか」

 龍星に強く言い切られた雅之は半信半疑ではあるが、再び杯を手に取った。

「人は何故、鬼になったりするのだろうか」

 雅之は、川岸に眠る鬼を思いながら口を開く。

「原因はいろいろあるだろうが、一言で言えば執着、かな」

「執着か」

「憎悪であれ、愛情であれ、深い執着は人を鬼に代えるのだろうよ。
 実際、御所あたりにもたくさんいるではないか。
 出世に執着しすぎるものの目つきに、鬼を感じぬか?」

 あざ笑うような物言いには、同じ宮仕えの身として返事をしかねる雅之。
 もっとも、雅之は過度に出世を期待するような男ではなかった。

 雅之は話題を変える。


 夜闇は一層濃く深くなっていく。
 他愛ない話を肴に酒を飲む二人の男。

 春風が夜の闇に溶け込むように流れていく。



 まだ見ぬ明日に向かってゆっくりと、だが、確実に。
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