その唇も、その声も。
その唇も、その声も。
「先輩」
形のよい唇から紡がれるのは、声優さんみたいないい声。
「先輩、」
思わぬトラブルに残業が課され、いまだ直らない三日めの夜。プログラムを組み直す中で、その声に溺れるのは致し方ないことよね。なにせ頭はパンク寸前だし。
「先輩、ひとつ聞いていいですか?」
「なに?」
「――先輩、俺のこと見てますよね?」
あら、気づいていたんだ。そうよ。だって、形のよい唇にいい声なんて反則じゃない。自然と目と耳がいくのは当然でしょう? もちろん、いまも。
課長たちが喫煙所に一服しに行っているからか、二人きりなのもどこか甘い雰囲気をつくっている。一瞬逸らされた視線が、交わった。
「先輩――俺のこと好きですよね?」
漏らされる掠れた声に口端が緩む。ちょっとやめてよその声。にやけちゃうから。ええ。好きよ。大好きよ。その唇もその声も。胸がきゅんとなるくらいには。でもそうは言ってあげないけど。
――もっと聞きたいし見たいから。焦る声も聞きたいし、悔しさに唇を噛みしめる姿を見たいのよ。私はね。
end
2012/6/28
形のよい唇から紡がれるのは、声優さんみたいないい声。
「先輩、」
思わぬトラブルに残業が課され、いまだ直らない三日めの夜。プログラムを組み直す中で、その声に溺れるのは致し方ないことよね。なにせ頭はパンク寸前だし。
「先輩、ひとつ聞いていいですか?」
「なに?」
「――先輩、俺のこと見てますよね?」
あら、気づいていたんだ。そうよ。だって、形のよい唇にいい声なんて反則じゃない。自然と目と耳がいくのは当然でしょう? もちろん、いまも。
課長たちが喫煙所に一服しに行っているからか、二人きりなのもどこか甘い雰囲気をつくっている。一瞬逸らされた視線が、交わった。
「先輩――俺のこと好きですよね?」
漏らされる掠れた声に口端が緩む。ちょっとやめてよその声。にやけちゃうから。ええ。好きよ。大好きよ。その唇もその声も。胸がきゅんとなるくらいには。でもそうは言ってあげないけど。
――もっと聞きたいし見たいから。焦る声も聞きたいし、悔しさに唇を噛みしめる姿を見たいのよ。私はね。
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2012/6/28