ミックス・コーヒー
 だんだんと、目が暗闇に慣れてきた。

 女性の方は、かなりの美人だ。

 彼女の長い髪はくせっ毛なのだろう。
 艶やかだが、空気を含んでおり、時間が止まってしまった今も、風を受けなびいているみたいだ。
 
 美葉は、この女性の顔を知っている。



<貴之の顔>だった。



「美葉? なにしてんの」

 突然の貴之の声に、美葉の肩が揺れる。
「……びっくりした。覗き見なんて、悪趣味だよ。貴之」

「えっ、こっちこそビックリだよ! 立場逆転しちゃった。いや、だからこんな暗闇でおまえなにやってんの」

「……貴之の、お父さんとお母さんに挨拶してたの」

 貴之は、一瞬言葉を失った。

 そう、写真の二人は、貴之の両親だったのだ。
 
 貴之が言葉を詰まらせている間は、空気の流れる音だけが響いていたが、やがて静かに口を開いた。

「……親父と、母ちゃん、なんか言ってた?」

 美葉は、貴之の目を見つめながらいつもの無表情で、答える。 

「美葉ちゃん、貴之のことをよろしく頼むよ。フハハハハ」

「お、親父……?」

「貴チャマは神経質ザマスからねえ。美葉チャンには苦労をかけるザマスねえ」

「ザマス! おまえにはオレの両親は一体どんな風に見えてんだよ」
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