ミックス・コーヒー
 その彼女はというと、惚けた顔で斜め上の空間を眺めている。

「なあ、貴之。しゃべったよな、今!」

 尚樹が満面の笑みで声を上げる。

 彼らの前での、彼女の第一声。
 顔にも声にも表情が無いのが、貴之は気になったが。

 また、一言声を発したところで、彼女の謎は全く解明されそうにない。

 むしろ、なぜか国籍すらわからなくなってしまった。

 それでも、二人の献身的な介護(?)に彼女も心を許し始めた……のだろうか。

 その証拠になるかどうかはこの時点ではまだわからないが、とにかく尚樹は、初めて聞いた彼女のその声が嬉しくて仕方なかったのだろう。

「失敗した。ビデオに撮っとけば良かった」
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