ミックス・コーヒー
「そのロープは……その日収録のバラエティ番組で使用される予定だった、少し特殊なロープだった。私も、その番組に出るはずだったが、そのロープの存在はリハーサル前は知らなかった。おそらく、美鈴もそうだろう。だから、それを使って首を吊る、ということは考えにくいと思う」

 河内は少し間をとる。

「たとえ、なんらかで彼女がそのロープの存在を知ったのだとしても少しおかしいんだ。それは、一つ一つが小さく巻かれて束ねられた物だった。彼女が持ち帰ったのだとしたら、そのロープの切れ端や芯が彼女の楽屋に転がっていても良さそうなものだが、それがなかった。スタジオで必要な分のロープだけ切って持っていくことは目立つし、不自然だろう」

「事件が起こった時、そのロープの話は出なかったんですか?」

 自分は場違いだと思って発言をずっと控えていた貴之だったが、どうしても抑えきれず、河内に問う。

「……出なかったろう。気づいていた者もいたかもしれないが、言い出せなかったと思う……私のように」
< 169 / 366 >

この作品をシェア

pagetop