ミックス・コーヒー
 沢下が白いビニール袋をカウンターに上げる。
 ずしん、と音がした。

「生臭っ!」
 思わず、貴之が仰け反る。

「今日はお土産に、実家の青森から送られてきたホタテを持って来たんですよ」

「ほ、ホタテですか?」

「はい、家で養殖しているんです。ここのお店は、喫茶店なのにどうやら魚介類も扱っているようなので、ぜひ、と思いまして」

「いや、サンマだの鮭だのを注文するのは、おたくの先輩のみなんですけど」

「えっ、そうなんですか? 僕はてっきりそれがこの店のウリかと……」

「ウリかどうかはわかりませんが、とりあえずありがたく頂きます。おそらく、大喜びするお客さんがいると思うんで。ちなみにその方のイニシャルはたぶんSです」
 
 沢下は「それは良かった」と爽やかに笑った。
 本当に掴みどころのない男だと、貴之は思った。
< 185 / 366 >

この作品をシェア

pagetop