ミックス・コーヒー
 貴之は今、苗字がどうのこうの、伝説の芸人がどうのこうのと言っている場合ではないのだということを察した。

 尚樹もその空気に気づいたようだ。
 もう、その話題を続けようとはしなかった。

 尚樹はマイペースではあるが、周りに気を使ったり空気を読みとることに関しては貴之よりも上手だ。
 もはや、マイペースとはいえないのかもしれないが、それでもそう思わせるのは、彼が異常なくらいにスローペースだからなのか。

 そして、それに加えて、人と打ち解ける能力も尚樹の方が格段に上だった。

「ねえ、美葉って呼んでもいい? おれ達のことも尚樹と貴之でいいから」

 何を勝手に。と、貴之は心の中でツッコミを入れる。

 だが、美葉がそれに静かにゆっくりと頷いたので、貴之も何も言えずにいた。
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