ミックス・コーヒー
「……わかるだろ? 美葉。オレはおまえのワガママになんか構ってられないんだよ」

 貴之の冷たい口調に、尚樹が声を上げる。

「貴之! そんな風に……」

「今すぐ家に帰れ。帰りの電車代くらいは出すから」

 尚樹の言葉を最後まで聞くことも許さず、貴之は更に冷たく言い放った。

 やがて、美葉の方から今までで一番細い声が聞こえてきた。


「……帰る、家、なんてない」


 思わず、美葉に視線を合わせる。
 その時、初めて貴之は、彼女の目に表情が灯ったのを見た。
 
 それは、悲しい。淋しい。苦しい表情だった。

 貴之は、口を閉じざるを得なかった。

 美葉は続ける。
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