ミックス・コーヒー
「勘違いするな、川村。彼女は生きている」

 シゲの言葉が川村には思いがけないものだったようで、とたんに彼の目が大きくなる。
「……ほう。そうでしたか」

「なぜ、殺意を持っていたのに、一度しか刺さなかったんですか? それにナイフも刺さったままでした。せめてナイフを抜けば更に大量の血が吹き出し、ほぼ間違いなくミクリは命を落としていたんじゃないんですか?」

 貴之が、激しく脈を打つ体で、心だけはなんとか静めさせ、川村に詰め寄った。

「ひょっとして、あなたの中にほんの少しだけまだ潜んでいる人間の心が、その行為を止めたのですか」

 貴之はすがるような気持ちで、川村を見る。



「……フフッ……ハハハハハッ」

 さもおかしそうに笑う川村は、異常そのものだった。
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