ミックス・コーヒー
 沢下を居間に招き入れ、ソファに座らせ、貴之は三人分のコーヒーを淹れる。

「すみません……。渡辺さんは、もうそろそろ一旦、帰宅を許されるはずです」

 貴之と美葉の表情が少し緩む。

 だが、沢下の表情は、今までで一番暗かった。

「沢下さんが謝らないでくださいよ。充分、がんばってくれたじゃないですか」
 貴之は精一杯答えた。

「ところで、どうしたんですか。突然」
 貴之がテーブルの上にカップを並べながら、改めて問う。

 沢下はガサガサと音をたてながら<青森りんご>と印刷されている紙袋から、何かを取り出した。

「これを。美葉さんに渡そうと思いまして」

 それは、所々焼け焦げた黒革の手帳だった。
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