ミックス・コーヒー
「貴之。たしか前、一ヶ月くらいバイトでいた李(リー)の制服がまだあったよな。
『コッチヨリ、アッチノホウガ、金オオイ』とか言い残して、キャバクラに行っちゃったあの中国人留学生の」

「また苦い過去を。……ああ、たしか和室の押入れに入ってるはずだ。そもそも制服なんてちゃんとしたもんじゃないけど。つーか、まじで? 本当にやる? 美葉」

「私、やる。がんばるよ、李より」
「李のことはもういいから」

 貴之は、美葉がウェイトレスをやることに積極的になっていることを少し驚いていた。
 それは、ずっと彼女から<無気力のオーラ>を感じていたからだ。

 そう思っていたのは、自分の勘違いだったのか。
 いや、やっぱり美葉はつかみどころのない不思議な女性なのだ。

 それか……。

 これは彼女なりの<恩返し>なのだろうか。
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