ミックス・コーヒー

怪しい看板娘

　　　①

　今日は快晴だ。

　昨日までの悪天候が、まるで嘘のようである。
　店の窓から、キラキラと光が舞い込み、荒んでいた貴之もしだいに爽やかな気分になってきていた。
　
　貴之の気分に関係なく、客の数はいつもどおり決して多くはないが、今日の彼は＜それこそ関係なし＞といった気分である。
（とりあえず、今日は。）


　やがて、カランカラーン、とドアに付いている鐘を豪快に鳴らしながら、一人の客がやってきた。

「いらっしゃいませ、シゲさん」

　その、まるで漁師のような風貌の中年の男は、貴之にそう迎えられ、ニカッと笑った。

　そして、慣れた足取りでカウンターの真ん中の席に着くと、これまた豪快に椅子に腰をかける。
　ガタイの良い男の尻は、小さな丸椅子から本当に豪快にはみ出している。
< 48 / 366 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop