ミックス・コーヒー
 長年同じ物を愛用している尚樹の財布を、貴之は嫌でも覚えていた。
 
 それに、なによりこの財布は女物のようだった。



 ……美葉の物だ。



 貴之の頭に、無風の静けさが漂った。

『ただ、間違って捨ててしまったのだろう。美葉も、尚樹ほどじゃないが充分ボケているからな』
 
 何度も何度も、その文章を頭の中で繰り返す。
 そうすることによって、貴之の中で溢れ出そうとしている<嫌な予感>をなんとか押さえつけていた。


 
 貴之はゆっくり財布を開いた。
 もはや、無意識だった。

 免許証が入っている。
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