ミックス・コーヒー
   ③

 見慣れた狭い部屋。
 一人で暮らすには充分な広さだが、男二人が向かい合って座るととても窮屈に感じてしまう。

 貴之は、気づいたら尚樹のアパートに来ていた。



「……なんで、一回<古亭路>って言ったのに、わざわざ言い直したんだろうな」

「………」
 貴之は胡坐をかいたまま、ずっとうつむいている。

 今朝のことを、気持ちを込めずに簡潔に話した後は、尚樹の話に返事すらしようとしなかった。

「たぶん、なにか理由があるんだよ」

「理由があろうがなかろうが、嘘は嘘だ」

 数分ぶりに聞いた貴之の声は静か過ぎて、重過ぎて、尚樹の言葉も胸の入り口で詰まってしまった。
 尚樹は意識してその入り口を緩め、言葉を探し、ゆっくりと貴之に問うた。
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