ミックス・コーヒー

   ①

 貴之が自宅に戻ると、そこは妙な静けさが漂っていた。

 尚樹は、玄関で待っていた。
「玄関の戸は、鍵がかかっていなかった」

「………」

 美葉の靴は、ある。
 ただ、サンダルが一足なくなっている。

 尚樹も、それにはとっくに気づいていたようだ。
「自分で出て行ったとは考えにくいよな」

「どこかに出かけたってことは考えられないか?」

「どこかって、どこへ?」

 尚樹の言うとおりだ。

 美葉が一人でどこかに出かけるということは考えにくい。

 貴之は、自分の発した言葉が気休めのような物だった事に気づく。
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