ミックス・コーヒー
 彼には、その愛した女性の笑顔を、懐かしいと……、過去の物のようには、とてもではないが思えなかった。

 <死>を、受け入れることが出来なかったのだろう。

 結局美葉は、誠の涙は一度も見たことがなかった。



 それから……誠の様子は明らかに変わっていった。

 彼が家に帰らない日が度々あった。
 美葉は、父がなぜ帰ってこないのか、わからなかったが、自分で一人分のご飯を用意して、一人で食べていた。

 やがて、父は家に帰ってくるようにはなった。ただ、一人ではなかった。

 見知らぬ女と一緒だった。
 正確にいうと、女達、だ。
 毎回のように違う女だった。

 その女達の中には、美葉に優しくしてくれる人もいたが、ほとんどは辛く当たってくる者ばかりだった。
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