君が見たいから ~ Extra ~
3
『待てよ! 唯! どこに行くつもりだ?』
咄嗟に逃げるように駆け出したものの、足はソンウォンの方が圧倒的に早かった。十メートルも行かないうちに当然のように追いつかれてしまう。
背後から腕を捕まれた拍子に、持っていた財布と傘が濡れたアスファルトに滑り落ちた。
彼が手にしたブリーフケースをその辺りに投げ出すなり、両手で唯を拘束するように背後から抱き締めてしまったので、どうにも身動きが取れなくなった。もがいてもまったく無駄な抵抗だ。
『痛いわ……、離して』
とうとう呻くように訴える。ようやく気が付いたように彼が手を緩めた。
『いきなり、どうしたって言うんだ? いったい……』
その声に混じる強い苛立ちを感じ取るなり、唯はソンウォンの腕の中でくるりと振り向くと、強く言い返した。
『あなたこそ何よ! 出張で遅くなるって言ってたくせに、どうしてテーファさんと一緒に帰ってくるの? もしかして今日、ずっと一緒だったわけ?』
彼の腕にまた力がこもった。いきなり飛び出した咎めるような言葉に我ながら慌て、夫の視線を避けるように顔を背ける。
だが、片手で顎をつかまれ、くいと持ち上げられてしまった。黒い目がじっと見おろしていた。
彼女の動揺を見透かし、全てを包み込むような落ち着き払った眼差し。思わず魅せられたように見つめ返してしまう。