君が見たいから ~ Extra ~



 彼女から急を知らせる連絡が入ったのは、それから一週間ほどたった午後だった。

『何だって? まだ予定日まで何日かあったはずじゃないか?』

『予定ではね。でも、この子がもう出てきたがってるみたいなの。さっきから……』

『わかった。すぐに行くから君は絶対に運転するんじゃないぞ。お袋は? 今そこにいるのか?』

『ええ。準備してくださってるわ。そうなの、お義母様が一緒に来てくださるって……、だからそれまで部屋で動くなっておっしゃって……。あっ、また……』

 携帯の向こうで彼女が息を詰まらせたのがわかった。

『唯! 大丈夫なのか?』

 急きこんで尋ねるが返事はない。


 沈黙と同時に彼女の息遣いが荒くなったのがわかり、手に汗がにじんできた。


 もちろん冷静に考えれば彼女は今親父の家にいるのだから心配はないはずだった。

 臨月に入ってからお袋が是非そうしろと言い張ったためだが、今日ばかりは彼女がマンションに一人でないことが心底ありがたい。
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