君が見たいから ~ Extra ~
僕は思わず噴出しそうになった。
だが、彼女の静かな怒りの火にさらに油を注ぐのも得策ではない。7か月この方一緒に暮らしてみて、彼女も怒らせたら結構怖いのだ、とよくよくわかってきていた。
この日本女性は韓国の女性達のようにカーッと瞬時に火が付いたように怒りを燃え上がらせる性質ではない。
むしろ一見怒っていることさえわからないほど穏やかに見えながら、その実、怒りの炎はじわじわと消えずに燃え続け、うっかりしているとこちらがその原因すら忘れた頃にやけどをするはめになる。
笑いを噛み殺し、僕はわざともったいぶった顔で彼女に近付いていった。
『気持ちはわかるよ。だが、これはこの国の産婦への伝統的な風習みたいなものでね。同情はするけど、おそらくあとひと月は、そのわかめスープと付き合ってもらうことになると思うな』
僕の声に、はっとしたように唯がこちらを振り向いた。
『ソンウォンさん!』
驚いたように僕の名を呼んだ唯の表情が、僕の心を捉えて離さないあの笑顔に変わる。
だが、その表情も束の間、言葉の意味が飲み込めたのか、目を丸くして反芻した。