君が見たいから ~ Extra ~
『ひと月? ってまさか……、これから一か月も朝昼晩、毎食これなの?』
見るからに呆然としている唯に、付き添いの太った年配の婦人が朗らかに言った。
『まぁまぁ、何のことをおっしゃっているのかと思ったら! もちろんですとも! わたしなど娘のためにそれを百日まで作り続けましたよ。そのわかめスープは身体の血液を綺麗にして、エギオンマ(ママ)のお乳をよく出すんです。ほら、早くお召し上がりくださいな。エギ(赤ちゃん)がお腹がすいたとまたすぐ来てしまいますからね』
百日と聞いて、さらに嘘でしょ? と言うように目を見張った唯に近付くと、僕は笑いながらその滑らかな頬をそっと指先で撫でた。
『うちに手伝いに来てるヨンミさんも、とうにわかめスープ用の大鍋を持ち出してきてるよ。君達二人が帰ってくるのを今か今かと待ち構えてるんだ。まぁ、メニューに文句が言えるくらい元気になったのなら結構だ。明日予定通り退院できそうだな。ほら、君が頑張って食べないと、セナもおなかがすいて何度も泣くだろ? 今はあきらめて、残さずきちんと食べること』
両方からこう言われ、彼女は負けた、と言う顔で脱力したようにがっくりと肩を落とした。
スーツのポケットでまた携帯が唸り始めた。
僕は立ち上がると、明日の午前中に迎えに来るよ、と言い置いて部屋を出た。
せめて明日帰ってくる彼女のために、僕らの部屋を彼女の好きな花で満たしておいてやろう、と考えながら……。
~ fin ~