君が見たいから ~ Extra ~
キッチンに立ち、棚からコーヒーを取り出しセットしながら、唯は思わず一つため息をついた。
唯より一年遅れて、去年の暮れに結婚した友人の愛美に、もやもやしたこの思いを電話で打ちあけてみたことがあった。
だが、即座にこう言い返されただけだった。
「却下ね。なーに贅沢なこと言ってるの! わたしなんて、仕事やめたくてもやめられないのよ。子供だって、まだとても作れないし。あくせく働いてローンの返済してるこっちの身にもなってよ。あなたの旦那様なら、奥さん役いつでも代わってあげるわよ」
いえ、それはご遠慮します、とちょっと苦笑して電話を切った。確かにそのとおりだけれど……、と思わず笑ってしまう。
僅かな期間だったが、夫と同じ職場にいたお陰で、業務内容や現場の様子もある程度理解しているつもりだ。新年度に入り更に多忙になっているのもよくよく頷ける。
だから自分にできるのは、つまらない愚痴をこぼして、この上彼を煩わせたりしないことだけ。
そう決心し、彼の前では無理にも明るく振舞っていたが、時折無性に息が詰まるような気がするのはどうしようもなかった……。