君が見たいから ~ Extra ~
ソンウォンは唯から手を離すと、首の後ろを二本の指でもんだ。
やはり疲れているのだろう。気遣うようにそっと肩をさすると、彼は小さくため息をついた。
『今夜もかなり遅くなりそうなんだ……。業績が伸び悩んでる支社へのてこ入れに行かなきゃならない』
『え、また出張? 日帰りで帰ってこれるの?』
『ウルサンだから、それは大丈夫さ』
ウルサンは半島の南端、プサン市の隣に位置する新しい広域市だ。国内便に乗れば一時間ほどで着く。
やれやれと言いつつも彼の頭の中には、すでにその『てこ入れ』のプランも万端出来上がっているのだろう。さぞ手厳しい内容に違いない。
自分の経験を思い出し、担当者達が気の毒になる。
『でも、海外じゃないだけ、まだマシと思わなくっちゃね……』
『唯……?』
ふと滑り出た言葉に、少し心配そうに彼が唯の名を呼んだ。
何でもないと言うように、急いで淹れたてのブラックコーヒーをカップに注いで手渡すと、唯は自分を抱き締めるようにリビングの窓辺に近寄った。滴り落ちてくる雨だれを眺め、呟くともなしに呟く。
『今朝も雨ね……。春先って雨の日が本当に多いのね。日本もそうだけど』
『ああ、春雨(ポムピッ)って言うくらいだから』
「ポム(春)ピッ(雨)ね……、日本語にもあるわ、まったく同じ言葉」