君が見たいから ~ Extra ~
わたしったら、忙しい時間にいったい何を言ってるのかしら。しっかりしなくちゃ。
慌てて首を振って、早口の韓国語で言い繕った。
『やだ、ううん、別に何でもないのよ、気にしないで。ソンウォンさん、朝から変なこと言ってごめんなさい』
少し考え込むように彼は唯の頬を指先でそっと撫でると、いいからゆっくりしてろよ、と呟いた。
だが、ブリーフケースを取り上げドアから出る直前、急に思い出したように振り返る。少し言いにくそうにこう付け加えた。
『忘れてた。夕べお袋から電話があったんだ。セナの顔が見たいから今日家に連れて来いってね』
『こ、この雨の中を?』
思わず真顔になって再び窓を見やる。ソンウォンが苦笑した。
『車を使えばいいだろ? もっともあのお袋のことだ。あとで迎えでも寄越すかも知れないな。まぁ、もし行ったらゆっくり食事でもして休んでくればいいさ。お袋の相手は適当にしておけばいいよ』
もう少し明るい気分の時なら笑って『そうするわ』とでも言えたに違いない。だが今はお世辞にも嬉しそうな顔はできなかった。
この前、ユ家の邸にセナを連れて行ってから、まだ一週間しか経っていないのに……。
だが、すでに十二分に重責を担っている彼に、つまらないことでこの上わずらわせたくはなかった。どうにか口の端に笑みを貼り付ける。
『わかったわ、気をつけていってらっしゃい』
夫を送り出したあと、またもや一つため息をつくと、唯はリビングのソファーに座りこんだ。