ヴァンタン
 入浴剤の甘い香りに包まれながら、又至福の時間を堪能する。


何気なく手を置いたロールタイプの風呂蓋。

その下に広がる世界に思わずドキッとした。


腕の影が水面で屈折して、死人の手のようにどす黒く光っていたからだった。

そしてその手先は、自分の太ももを今にも掴みそうだった。


――水鏡?

私は慌ててクロスペンダントを映し出したコーナーラックの鏡を見た。


――この鏡もきっと……

奥の奥を考えた。

底のない世界がきっと其処にある……

私にはそのように思えてならなかった。




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