ヴァンタン
それは摩訶不思議な鏡だった。

人物を写し出したらそのまま、まるで絵のように動かない。

一旦その状態になると、其処から動いてもずっとその人を映し出している。


まるでその人に執着するかのように。




私は、私を写したままの鏡が怖くなった。

だから母にすがり付いて泣いていた。


「これが鏡? あなた騙されたのと違うの」
母も呆れていた。


「可哀想に。でももう泣いちゃ駄目よ」
母は泣き虫の私を抱き締めてくれていた。


「いや、船の上ではちゃんと動いていたよ」
パパも反撃する。


魔法の鏡はこのようにして我が家にやって来たのだった。
< 40 / 198 >

この作品をシェア

pagetop