ヴァンタン
何も無い海
鏡の世界に手間取りながら、どうにかこうにかたどり着いた海。


出来の悪い頭で必死になって考えた末に、出した結論だった。


十年前にお・ね・え・さんと探検した鏡の中にいたパパ。

詳しい経緯良くは覚えていない……


それでも……やはりパパの手掛かりは此処にしかない筈だった。

だってパパは外国航路の船長なのだから。


パパは客船が海賊らしき船に襲われた事で、行方不明になっていたのだから。


――此処しか……


――この海しかない筈だ。

マジでそう思っていた。




まるて万歳のコントのような調子で、其処まで来た私達。

そんな二人を待っていた物は、小さな手漕ぎボートだった。

他には何もなかった。


「此処海だよね?」
私が言った。


「なんで海に船が無いの?」
私は震えていた。


「これで来いって言う事だねきっと」
珍しくチビが言う。


「そうみたいだね」


「パパ、きっと待っているね。早く行こうよ」

チビは積極的だった。


――チビ……アンタどうかしてる。だって泳げないんだろー。


そうなのだ。
私は泳ぎが超苦手だったのだ。




――何かのアトラクションだと思っていた。


――そう遊園地の海エリアの……

だから楽しい思い出しか覚えていなかったのか?


――今日私達が助けに行く事をパパは知っているのだろうか?


――パパ解るかな私が……
心配だった。


私がパパを忘れていたように、パパも私の事など忘れてしまったのではないだろうかと。


いやパパは私の事など知らない筈だ。
だってこの時代に私はまだ居ないのだから。


私ははしゃいでいるチビの目を避けるように、陰で泣いていた。


もっと心配な事……


ボートが怖かった……
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