モントリヒト城の吸血鬼①~ヴァンパイアの花嫁~
「…。」
「食べて。」
「…。」

向かい側に腰かけた男が再び呟くようにいうが、
そんな気分になれるわけがない。

そもそも、変なモノが入っていそうで怖い。

そう思って黙り込む姫乃の様子をじっと見ていた男は、
おもむろにトレイに手を伸ばす。

トレイの皿から、パンをとり間にベーコンを挟んで
一口かじって見せる。

「あ…。」
「食べて。」

三度目の言葉には微かに苛立ちの気配があった。

「…これも口移しで食べさせないといけないの?」
「た、食べますっ。」

不機嫌も露わにそう言われれば、姫乃は
反射的にパンに手を伸ばした。

こんなよくわからない状況で、食欲など
わくはずもないと思っていたが、
いざ口にしてみれば、身体は素直に栄養を
取り込もうとする。

いや、むしろ正直におなかは空腹を訴え始めた。

大きくおなかの音がなって、なんとなく恥ずかしい
思いになる。

食べ始めてから、しばらく姫乃をじっとみていた男は、
姫乃の食事が進むのに満足したのか、
いつの間にか窓の外を見ている。

よくよく考えてみれば、たぶんまる一日、何も食べていない。

おなかも満ちてくると、先ほどまでの恐怖も多少はおさまり、
頭の方も次第に動きがよくなってきた気がする。
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