モントリヒト城の吸血鬼①~ヴァンパイアの花嫁~
だいぶ落ち着きを取り戻した姫乃は、
食事を続けながら、ちらちらと目の前の
男を盗み見た。

歳は20代前半くらいだろうか。

漆黒の手触りのよさそうな短い髪と、
やや線が細く、均整のとれた身体。

ぱっとした見た目だけなら、きっと若い女性にもてる。

ただ、その瞳が、少しだけ怖かった。

髪と同じ、でもそれよりもっと深い深い黒。
何を考えているかよくわからない瞳。

そういえば、さっき、姫乃を追いかけてきた
髪の長い男も、同じ色の瞳だった。

目の前の男と違って、少し陰鬱な感じに見えたが。

考え事をしていたため、姫乃は男が自分に手を
伸ばしたことに気付かなかった。

男の指先が自分の頬に触れてようやくそのことに気づく。

驚いた姫乃は持っていたナイフで男の手を払ってしまった。

「あ…。」

ぽたり、と男の切れた指先から、紅いしずくがこぼれる。
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