モントリヒト城の吸血鬼①~ヴァンパイアの花嫁~
お礼を言ってしまうと、
次に何を言えばいいか
わからない。

男は、沙羅を見るでもなく、
じっと玄関のドアを見て
黙っている。

そんな男をどうしていいか
わからない沙羅は、
じっと見つめる。

「…。」

「…。」

じっと見つめていると、
男の表情が、少しずつ、
難しいものに変わっていく。

男にしてみれば、無言で
延々と視線を注がれる
居心地の悪さに表情が
こわばっているのだが、
そんな心情などわかるはずも
ない沙羅はその表情を
不思議に思って見つめ続けた。

「…。」

「…。」

男も、沙羅も、どちらも
何も言わず、時間だけが
過ぎていく。
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