モントリヒト城の吸血鬼①~ヴァンパイアの花嫁~
「…。」

ただのくぼみに見えたが、
凍夜は香りの導くままに
くぼみに足を進めた。

何もないと思っていた
側面の壁が、細い通路に
なっている。

入り組んだ道を進むと、
よく見慣れた後ろ姿が
ペンと用紙を手に
真剣に首をかしげていた。

気付かれていない
ようなので、そのまま
足音を殺して背後に立つ。

姫乃の細い首に手をかけ、
唇が触れるほど近づけた
耳元で囁いた。

「…見つけた。」

「きゃあ!?」

驚いた姫乃が悲鳴を上げて
顔だけこちらに向けると、
大きな瞳がしまった、と
言いたげに見開かれていた。
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