モントリヒト城の吸血鬼①~ヴァンパイアの花嫁~
「…この紋章がどうかしたの。」

「違うわ。紋章じゃなくて、
そのまわりなの。」

近づいてよくよく見てみれば、
そこには紋章を囲うように
らせん状に並ぶ、古語で
書かれた文章があった。

「それが、わたし、
読めなくて…。」

そういって、先ほど隠した
用紙を凍夜に差し出す。

姫乃に渡された用紙には、
読みやすいようまっすぐに
書き写された古語の文章と、
姫乃が訳したらしい言葉が
並んでいた。

「…全部が読めないわけじゃ
ないんだね。」

「…単語は、少しだけ。」

姫乃は恥ずかしそうに
つぶやいた。

訳を見る限り、学んだ、という
レベルではないようだが、
それにしてはよく知っていると
感心する。

姫乃が時折見せる村娘らしくない
偏った知識や教養も、凍夜に
とっては興味が尽きない一面だ。
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