モントリヒト城の吸血鬼①~ヴァンパイアの花嫁~
姉を、死んだことにして
あの男の人に渡す…?
ゾッとして、喉から
出かかった声を、
どうにか両手で押し戻す。
…この人たちは…姉を…。
足音に気付いて、
沙羅は息をのんだ。
ドアの隙間から、
地主がこちらを睨み、
相手の男がこちらへ
向かってくるのが見える。
視界の端に、さっきまで
抱えていたはずの沙羅の
靴が転がっているのが見えた。
先ほど、声をあげそうに
なった時に落として
しまったのだ。
動揺していた沙羅は
気付かなかったが、
床に落ちた靴の音が
部屋の中に届いて
しまったのは明白だった。
隠れるところを探すより先に、
男の方がドアに手をかけた。
「…。」
「ミャア。」
男がドアを開けると、
何もない廊下で気持ち
良さそうに毛づくろいを
する一匹の真っ白な
毛長猫が愛らしい声で鳴いた。