モントリヒト城の吸血鬼①~ヴァンパイアの花嫁~

…姫乃は、ちゃんと
気付いている。

姫乃は女で、
凍夜は男だ。

そこには、そう生まれた
ために越えられない
力の差がある。

なのに、凍夜は姫乃が
本気でなりふり構わず
抵抗したら、逃げだせる
隙を残している。

それでいて、わざわざ
姫乃の気持ちを尊重する
言葉を与えてくれる
その優しさが、たまらなく
嬉しかった。

姫乃の返事を待つ間、
凍夜は何も言わず、
何もせず、腕だけは
拘束したまま、ただ
じっと姫乃を
見つめている。

その視線があまりにも、
切なげで。

姫乃の心臓を掴んで
放してくれないから、
姫乃は苦しくてたまらない。

苦しさに耐えきれなくて、
姫乃はせっかく凍夜が
残してくれた逃げ道を、
自ら潰してしまった。
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