モントリヒト城の吸血鬼①~ヴァンパイアの花嫁~

吸血鬼と紅い薔薇―姫乃

意識はなんとなく覚醒に
向かっているのに、
甘いだるさが心地よくて、
姫乃はなかなか目を
あける気になれなかった。

姫乃を包み込むような
暖かさがその心地よさに
拍車をかける。

ほんのりと香る、
陽だまりのような
優しい香りも姫乃の
気力を奪ってしまう。

それでもどうにか、
心地よさに抗い
まどろむ目をあけると、
その瞳に、艶やかな
深紅が飛び込んだ。


美しい、深紅の薔薇。


その花弁を纏う女が
気だるげな、でも
満たされた眼差しで
こちらを見ている。




…薔薇の、妖精…。




昔、孤独な吸血鬼に
恋した一輪の薔薇が、
思いを伝えたい一心で
その身を美しい娘の
姿に変え、その吸血鬼に
望まれ共に死んでしまう、
幸せだけれど悲しいお話。
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