モントリヒト城の吸血鬼①~ヴァンパイアの花嫁~
「…傷の手当てが先だね。」

俯く姫乃に降りかかった
言葉が予想していた
どんな言葉とも違って、
姫乃は少しだけ安堵した。

そうして少しだけ
解けた緊張が
伝わってしまったの
だろうか。

拒否する間もなく、
なかば強引に
上を向かされ、
唇を押し付けられる。

「…ん…。」

舌先で唇をなぞられて、
滲んでいた血を
舐めとられたのだと
気付いたときには
もう、凍夜の唇は
離れていた。

もう少しだけ、
そのままでいたかった、
などと欲張ったことを
想うのは、きっと、
もう二度と、凍夜と
口づけを交わすことが
ないからだ。
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