モントリヒト城の吸血鬼①~ヴァンパイアの花嫁~
…今しか、ない。
手を離せば、
逃げられる。
このまま逃がせば、
二度と誤解を解く
機会すら与えられない
気がする。
弁明の言葉はもちろん、
今つなぎとめておく
言葉すらわからないまま、
それでも今を逃せば
まずいことだけは
わかっていた。
というか、このまま
姫乃を一人にすれば、
彼女はまた痛ましいほど
目を腫れさせるような
気がしてならない。
これ以上、傷ついた
ままでいさせたくは
なかった。
「…。まだ、おなか
すいてるの?」
引きとめておきながら
黙り込む凍夜の
行動を勘違いして、
姫乃は襟元を
くつろがせる。
「たぶん、もう少し
くらいは大丈夫だと
思うんだけど…。」
餌としての役目を
果たそうと、微笑まで
浮かべて首筋を差し出す。