モントリヒト城の吸血鬼①~ヴァンパイアの花嫁~
幻聴かと思った声に
名を呼ばれる。

「姫乃。」

抱え込まれ、
涙を拭われれば、
はっきりとした
視界にうつるのは、
よく見慣れた漆黒の瞳。

「…凍夜…?」

「そうだよ。」

じっと覗き込む
凍夜の存在が
信じられなくて、
姫乃は恐る恐る、
両腕を伸ばした。

凍夜が痛ましげに
顔をしかめたのを見て、
伸ばした片腕の先を
失っていたことを
思い出す。

「…本当に、キミは
目を離すと何か
しでかすね。」

「…ごめんなさい。」

返す言葉もない
姫乃の頬に凍夜が
口づけた。

額に、鼻先に、唇に。

姫乃の顔をなぞるように、
唇で触れていく。
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