小さな恋の虹〜キミと描く夢〜
あたしが圭の腕を掴もうとしたら、あたしの手から逃げるようにスッと廊下に出て行った。
圭の腕をつかみ損ねた手が、宙に悲しく浮いている。
圭はもう一度携帯を開き、足早に廊下を歩きながら誰かに電話をかけた。
「あー、稔、俺。母さんが……」
どんどん教室から離れていく圭の声が小さく聞こえ、途中で完全に聞こえなくなった。
大丈夫かな……。
もうすぐ退院出来るかもしれなかったのに、それが長引くって事?
また熱が出て肺炎になって……。
入院してるのに、よくならなかったの……?
あたしの肩に、良ちゃんがポンッと手を乗せた。
「行こう、歌恋。僕達は練習しなきゃ」
良ちゃんはそう言いながら、圭の消えた方に目を向けている。
あたしを見て柔らかく微笑んだけど、すごく心配そうな目をしてた。
正直言って、今は練習なんてしてる気分じゃない。
あたしも圭について病院に行きたかった。
でも……ヘタに騒いで迷惑をかけることになるくらいだったら、素直にしたがって練習にいくべき?