光のもとでⅠ
 すぐに電話をかけようと思ったけど、少し考えてやめる。
 きっと翠のことだ。ここに来たあとは病院へ行ったのだろう。そして、そのあとはホテル――。
 フルコースで世話になった人間にお菓子を配って回るに違いない。
 そう思えば、絶対的に携帯がつながる夜まで待つことにした。

 翠がバレンタインに手編みのマフラーを作ることは御園生さんから聞いて知っていた。バレンタインが家庭内の枠を出ないイベントであることも。
 だからこそ、自分の手元にマフラーがあることが嬉しく思える。
 間違いなく、「その他大勢」からは外れることができた。俺が一番近づきたいと思っていた家族――御園生さんと同等の距離にまで。
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