光のもとでⅠ
でも、とりあえず飛鳥ちゃんの件はクリア、かな。
「それにしても、あの男がお見合いっていうのが納得できないのよね……。藤宮司ってそんな人間じゃないでしょ?」
「あぁ、それは俺も不思議に思ってたとこ。見合い話が来るのは仕方ないにしても、司が黙ってお見合いするとは思えない」
「でも、藤宮先輩が婚約するかもって話しはテニス部女子の中では噂になってたよ? 中等部のテニス部ですごい噂みたいで、それが高等部にも広がってきた感じ」
飛鳥ちゃんの言葉に、また胸がぎゅってなった。すると、
「立花、噂ほどあてにならないものはないよ」
佐野くんが真面目な顔で指摘する。
「でも、火のないところに煙は立たないっていうじゃん」
飛鳥ちゃんがクッションを抱えながら言うと、
「それでも。……じゃないと、その人に対して失礼だ。噂なんて悪意さえあればどこにだって簡単に広がる」
「……それもそっか……」
飛鳥ちゃんも渋々と納得する。
佐野くんの今の言葉は心に残りそう。とても重みのある言葉に感じた。
「佐野、ムカつくくらいいいこと言うじゃない。ちょっと見直したわ」
桃華さんがソファーから身を起こして佐野くんに言う。けれども佐野くんは、
「簾条に見直されるとは、俺もなかなかやるな」
と、おどけて見せるだけ。
「話をもとに戻すけど、司のことはさ、翠葉が気になるなら直接本人に訊いてみればいいと思う」
言われて、すごく画期的だと思った。
「そっか、そうだよね? わかりもしないことをうだうだ考えてても仕方ないものね?」
……ん? あれ?
私はそれが知りたかったんだろうか? 何か違うような……。
少し考えて、どうしても知りたかったことを思い出す。
「あの……恋って胸がぎゅって痛くなるの?」
訊くと、四人から無言の視線が集った。
どうしてみんな無表情なんだろう……。
「参考までに……。御園生の初恋っていつよ」
「え? あの……初恋未経験早十六年で、あと一ヶ月もしないうちに十七年目に入ってしまいます……」
「「天然記念物?」」
飛鳥ちゃんと海斗くんが口を揃えた。
「いや、これは絶滅危惧種の間違いじゃね」
いつかの春日先輩と同じことを言ったのは佐野くんだった。
「本当……。世話のし甲斐がある子ってかわいいわね……。翠葉、恋にも色んな形があるし、色んな想いがあるのよ。だから、それは自分で見つけなくちゃ。時と場合によっては秋斗先生とのお試し恋愛も悪くないんじゃない?」
言われて私は首を傾げる。
「あのね、そのお試しなんだけど……。どうもクーリングオフ制度もついてるみたい」
思い出したことを口にすると、
「翠葉……。非常に申し訳ないんだけど、間違いなく秋兄本気だわ。これは心してかかってね?」
「え? それはどういう意味?」
「いや、普通に。すごく翠葉のこと好きなんだと思う。俺、秋兄がこんなに人に執着してるの初めて見るし……」
「まぁ、秋斗先生のは態度見てたらわかったけどねぇ……」
飛鳥ちゃんの言葉にびっくりする。
それはどこら辺の態度を指しているのだろう?
「まぁさ、これから中間考査だし、それはとりあえず置いておいて、テストが終わったらゆっくり考えてみれば? 時間を置いたほうが、物事見えてくることもあるし」
佐野くんの言葉に少し救われる。
そっか……。そしたら一週間ちょっとは考えなくて済むよね?
そう思ったら少し落ち着いた。
その頃合を見計らったように美女と野獣のオルゴールが鳴り出す。
この着信音は秋斗さんのメールだ。
手に持っている携帯を注視するものの、なかなかメールを見る気にはならない。
「メール、見ないの?」
飛鳥ちゃんに覗き込まれ、
「だって……秋斗さんからのメールなの」
答えると、
「秋兄、タイムリーすぎ!」
と、海斗くんが床に転がった。
「見るだけ見たら?」
桃華さんに言われ、意を決してメールを開く。
みんなに覗き込まれたディスプレイには――。
件名 :熱は下がった?
本文 :湊ちゃんから知恵熱って聞いた。
知恵熱の原因が俺だと嬉しいんだけど……。
とりあえず、俺の連絡先を登録しなおしてほしい。
これ、翠葉ちゃん専用の回線だから。
いつでもメールくれていいし、電話も可。
待ってるからね。
090-xxxx-3180
you_are_everything.@xxxx.ne.jp
「うっわー……。秋斗先生言うねぇ? 翠葉、いつもこんななの?」
飛鳥ちゃんに訊かれて少し困る。
「これ、どう取ったらいいの? 冗談なのか本気なのかわからない……」
両膝を抱えて蹲ると、
「いや、本気でしょ。見なよ、この電話番号にアドレス。3180って翠葉ってことでしょ? しかも、アドレスなんて、自分の兄ながら目を逸らしたくなる溺愛っぷりじゃん……」
言いながら、再度海斗くんが床に転がる。
「翠葉、意外と本気なのかもしれないわよ?」
桃華さんに言われ、
「俺には冗談とは取れないけどね」
と、佐野くんにとどめを刺された。
「……海斗くん、ひとつ質問が……」
「苦しゅうない。言うてみよ」
「秋斗さんっていつから〝俺"って言うようになったのかなぁ……。私の前ではいつも〝僕"だったのに……」
「……それ、警戒されないためかなんかだったんじゃないの? だって秋兄、俺と話すときは常に"俺"って話すよ?」
海斗くんのその言葉に四人固まったのは言うまでもない。
おかしいな……。私、蜘蛛の巣とかに引っかかった捕食物だったりするのかな?
「それにしても、あの男がお見合いっていうのが納得できないのよね……。藤宮司ってそんな人間じゃないでしょ?」
「あぁ、それは俺も不思議に思ってたとこ。見合い話が来るのは仕方ないにしても、司が黙ってお見合いするとは思えない」
「でも、藤宮先輩が婚約するかもって話しはテニス部女子の中では噂になってたよ? 中等部のテニス部ですごい噂みたいで、それが高等部にも広がってきた感じ」
飛鳥ちゃんの言葉に、また胸がぎゅってなった。すると、
「立花、噂ほどあてにならないものはないよ」
佐野くんが真面目な顔で指摘する。
「でも、火のないところに煙は立たないっていうじゃん」
飛鳥ちゃんがクッションを抱えながら言うと、
「それでも。……じゃないと、その人に対して失礼だ。噂なんて悪意さえあればどこにだって簡単に広がる」
「……それもそっか……」
飛鳥ちゃんも渋々と納得する。
佐野くんの今の言葉は心に残りそう。とても重みのある言葉に感じた。
「佐野、ムカつくくらいいいこと言うじゃない。ちょっと見直したわ」
桃華さんがソファーから身を起こして佐野くんに言う。けれども佐野くんは、
「簾条に見直されるとは、俺もなかなかやるな」
と、おどけて見せるだけ。
「話をもとに戻すけど、司のことはさ、翠葉が気になるなら直接本人に訊いてみればいいと思う」
言われて、すごく画期的だと思った。
「そっか、そうだよね? わかりもしないことをうだうだ考えてても仕方ないものね?」
……ん? あれ?
私はそれが知りたかったんだろうか? 何か違うような……。
少し考えて、どうしても知りたかったことを思い出す。
「あの……恋って胸がぎゅって痛くなるの?」
訊くと、四人から無言の視線が集った。
どうしてみんな無表情なんだろう……。
「参考までに……。御園生の初恋っていつよ」
「え? あの……初恋未経験早十六年で、あと一ヶ月もしないうちに十七年目に入ってしまいます……」
「「天然記念物?」」
飛鳥ちゃんと海斗くんが口を揃えた。
「いや、これは絶滅危惧種の間違いじゃね」
いつかの春日先輩と同じことを言ったのは佐野くんだった。
「本当……。世話のし甲斐がある子ってかわいいわね……。翠葉、恋にも色んな形があるし、色んな想いがあるのよ。だから、それは自分で見つけなくちゃ。時と場合によっては秋斗先生とのお試し恋愛も悪くないんじゃない?」
言われて私は首を傾げる。
「あのね、そのお試しなんだけど……。どうもクーリングオフ制度もついてるみたい」
思い出したことを口にすると、
「翠葉……。非常に申し訳ないんだけど、間違いなく秋兄本気だわ。これは心してかかってね?」
「え? それはどういう意味?」
「いや、普通に。すごく翠葉のこと好きなんだと思う。俺、秋兄がこんなに人に執着してるの初めて見るし……」
「まぁ、秋斗先生のは態度見てたらわかったけどねぇ……」
飛鳥ちゃんの言葉にびっくりする。
それはどこら辺の態度を指しているのだろう?
「まぁさ、これから中間考査だし、それはとりあえず置いておいて、テストが終わったらゆっくり考えてみれば? 時間を置いたほうが、物事見えてくることもあるし」
佐野くんの言葉に少し救われる。
そっか……。そしたら一週間ちょっとは考えなくて済むよね?
そう思ったら少し落ち着いた。
その頃合を見計らったように美女と野獣のオルゴールが鳴り出す。
この着信音は秋斗さんのメールだ。
手に持っている携帯を注視するものの、なかなかメールを見る気にはならない。
「メール、見ないの?」
飛鳥ちゃんに覗き込まれ、
「だって……秋斗さんからのメールなの」
答えると、
「秋兄、タイムリーすぎ!」
と、海斗くんが床に転がった。
「見るだけ見たら?」
桃華さんに言われ、意を決してメールを開く。
みんなに覗き込まれたディスプレイには――。
件名 :熱は下がった?
本文 :湊ちゃんから知恵熱って聞いた。
知恵熱の原因が俺だと嬉しいんだけど……。
とりあえず、俺の連絡先を登録しなおしてほしい。
これ、翠葉ちゃん専用の回線だから。
いつでもメールくれていいし、電話も可。
待ってるからね。
090-xxxx-3180
you_are_everything.@xxxx.ne.jp
「うっわー……。秋斗先生言うねぇ? 翠葉、いつもこんななの?」
飛鳥ちゃんに訊かれて少し困る。
「これ、どう取ったらいいの? 冗談なのか本気なのかわからない……」
両膝を抱えて蹲ると、
「いや、本気でしょ。見なよ、この電話番号にアドレス。3180って翠葉ってことでしょ? しかも、アドレスなんて、自分の兄ながら目を逸らしたくなる溺愛っぷりじゃん……」
言いながら、再度海斗くんが床に転がる。
「翠葉、意外と本気なのかもしれないわよ?」
桃華さんに言われ、
「俺には冗談とは取れないけどね」
と、佐野くんにとどめを刺された。
「……海斗くん、ひとつ質問が……」
「苦しゅうない。言うてみよ」
「秋斗さんっていつから〝俺"って言うようになったのかなぁ……。私の前ではいつも〝僕"だったのに……」
「……それ、警戒されないためかなんかだったんじゃないの? だって秋兄、俺と話すときは常に"俺"って話すよ?」
海斗くんのその言葉に四人固まったのは言うまでもない。
おかしいな……。私、蜘蛛の巣とかに引っかかった捕食物だったりするのかな?