光のもとでⅠ
「翠葉は落ち着いたのか?」
 翠は苦笑しながら答える。
「少し落ち着いた、というよりは中断しただけかな。もう、頭がおかしくなりそう……」
 いや、それは勘弁してほしい。
「……すでにおかしいから、それ以上おかしくなるのはやめてほしいんだけど」
 真面目にお願いをすると、
「……それは嫌みですか?」
「いや、真面目に」
 冗談なわけがない。むしろ、これ以上おかしくなるというほうを冗談だと言ってほしい。
 これ以上おかしな思考回路を駆使されても、自分に読み解ける気が一切しない。
 そこへ、海斗が「ただいまー!」と大声をあげて帰ってきた。
 玄関で靴を脱ぎながら、
「栞ちゃんっ、今日のご飯何っ?」
 キッチンへと声をかけると、
「おかえりなさい。今日はハンバーグよ」
「やりっ!」と、飛び上がりながらこの部屋へ入ってきた。
 入ってくるなり、
「翠葉無事っ!?」
「え……?」
「……おまえ、その顔泣いてただろ? 何があった? 秋兄の仕業っ!?」
 海斗が手洗いうがいも済ませずに翠に近づこうとした。
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