光のもとでⅠ
「変なこと言わないでよっ」
 と、睨みつける。
 けれども御園生さんはその問いにも律儀に答えた。
「今のところ、それはないみたい。……翠葉、怖かったのかなぁ……」
 御園生さんは呟きながらソファに体をうずめ、考えこんでしまった。
 皆自然とその周りに座る。
「今日、マンションに帰ってきたときにゲストルームにいなかったから秋斗先輩のところに迎えに行ったんですよ。そしたら、先輩に抱えられてエレベーターホールにいて、扉が開くのとほぼ同時くらいに翠葉が俺に手を伸ばしたんです。一瞬何が起こったのかわからなくて、即座に唯が動いてくれなかったら、翠葉、コンクリの上に落ちてました」
 それが秋兄を怒らせたもうひとつの要因?
 でも、それって自業自得なんじゃ……。
「蒼くんを目にしたら、手を伸ばさずにはいられなかったのかもしれないわね」
 栞さんは再度、翠の部屋に目をやった。
「でもさ、キスマークってそんなに嫌なもん?」
 海斗が栞さんに訊く。と、
「付けられることは嫌じゃなくても人に見られるのはまた別じゃないかしら? とくに翠葉ちゃんってそういうのを見せて回る子じゃないでしょう?」
「あぁ、なるほど……。確かに翠葉はそういうタイプじゃないな」
 今さらのように納得する海斗を殴りたくなる。
< 1,050 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop