光のもとでⅠ
 つまり、現実に目を向けさせる――。
 いかにも美鳥さんらしいやり方だ。
 けど、それを目にした翠はどう思うだろう。
 さらに動揺するのか、新たに違う思いを抱くのか。
 なんでもいい。ただ、泣かないでくれればそれでいい。
 心のどこかで美鳥さんが翠を笑わせてくれないだろうか、と思っていた。
 本当は自分ができたらいい。でも、俺はどうしたら翠が笑ってくれるのかがわからないから……。
 そんなことを考えていると、ふいにドアが開き、美鳥さんに支えられながら翠が出てきた。
 暗すぎてまだ表情は見えない。
 しかし、美鳥さんがくつくつと笑う声は鮮明に聞こえた。
「ほら、見てごらん? あのバカ面を」
 廊下を覗き込むようにして見ていた海斗と栞さん、御園生さんを指してのことだろう。
 後ろから見ているだけでも、どんな表情をしているのかは想像できる。
 リビングに近づくにつれて、翠の表情が見て取れた。
 おかしそうに肩を竦めてクスクスと笑っている。
 ……良かった。
 笑っている翠と目が合った。
< 1,061 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop