光のもとでⅠ
 ふと思い出すのは翠の身体。
 妙に力が入っていた。
 あくまでも普通に振舞っていはいたが、気がつけばシャーペンを握る手にすごい力が入っていたり、その右腕を抑える左手にも過分な力が入っていた。
 白い指先がうっ血するほどの力なのだから、相当だろう。
 間違いなく、まだ緊張状態にあった。
「……身体に力を入れすぎた状態はあまり良くないんだけどな」

 コーヒーをカップに注いでいると、カウンターに置かれた卓上カレンダーが目に入った。
 今日は救急のヘルプ……ということは、明日は間違いなく姉さんのマッサージをやらされるのだろう。
 救急にヘルプで入った翌日は毎回のことだった。
 たまには俺のマッサージをしてほしいと思わなくもない。
 でも、あの姉がしてくれるとは露ほどにも期待しない。
 頼るなら兄さんかな。
 兄さんの専門は麻酔科。
 手術室勤務でない限りは外来で神経ブロックなどの治療をしている。
 神経を扱う分野ということもあり、以前から東洋医学におけるツボも勉強している。
 俺がマッサージをする際にはそのあたりの知識を教えてくれていた。
 おかげで気脈経路にはかなり詳しくなったと思う。
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